<<岡崎鳴海さん執筆の第4話

>>もりさん執筆の最終回


 

〜今までのあらすじ〜

岡崎鳴海はごく平凡な高校生。

彼はクラスのマドンナ美莉里に淡い恋心を抱いているが、いまだ告白できずにいて、悶々とした気持ちを抱えている。

そんな鳴海には姉、アサ凪がいる。彼女には赤城康彦という恋人がいるのだが、何故か恋人の赤城より鳴海が気になっているのか。

鳴海によくなついてくる。弟思いの優しい姉と言うには少し異常なくらいだった。

しかも恋人赤城にも鳴海のことを良く話すので、赤城はアサ凪の気持ちを読み取れずに悶々とした気持ちを持っているようだった。

こんな感じで鳴海は、クラスメートや悪友、転校生、そして美莉里と気持ちは違えど同じ時間を過ごしてゆく。

そんな中、アサ凪と赤城が旅行にいくことになった。

そして、偶然にも鳴海は美莉莉や他のクラスメートと共に旅行をすることになるのだった。

果たして旅先では一体どんな出来事(ハプニング)が待ち受けているのだろうか…。

〜ここより本文〜


〜頭文字G 壮絶バトル!激突!吼える赤と白のマシン〜

 国道を北に、赤いRX-7(FC3S)が一台、朝日と風を全身に受けながら颯爽と走っている。

 空は雲ひとつ無い青い空。

 太陽の光がフロントガラス越しに乗っている者を照らし。朝の涼しい空気が開かれた車窓から流れ込んで乗っている者を心地よく撫でてくれる。

「でね、鳴海ったらね……」

 風にくすぐられて可笑しいのか、凪は楽しそうに笑い。

 車の助手席ではしゃいでいる。

「そしたら、鳴海がさぁ〜。これが最高なんだよね」

 本当に楽しそうで、今は大人であることをすっかり忘れて子供のようにはしゃいでいる。

「ああ、そうか……」

 運転席で車を運転する赤城は、最初の楽しさはどこへやら。

 今はただ凪の言葉に無表情に頷くだけで車の運転に集中している。

 風のくすぐりも赤城には通じないようだった。

 むしろ、くすぐられてちょっと鬱陶しそうで。ついには窓を閉めてしまった。

 太陽の光も鬱陶しいのか。サングラスをかけて、表情がわかりづらかった。

 自分がどんな顔をしているのか、凪には知られたくはなかった。

 でも、表に出てしまう自分にちょっと腹が立った。

 よくぞ気付かぬフリをしてくれている、と赤城は凪にこの点ばかりは感謝していた…。

 しばらく走って、山に入ったRX-7は峠のくねくね道に入った。周りの民家も通る車も極端に少なくなった。

「でねでね、その時鳴海なんて言ったと思う?」

 と言う、凪の言葉が耳に入った途端。赤城の口元がきゅっと引き締められる。

 おもむろに赤城はアクセルを踏み込んだ。

 室内に轟くRX-7の咆哮。上がるスピード、急に狭まる視界。

「ちょ、ちょっと。いきなりどうしたの?」

 突然のスピードアップに驚いた凪は慌てて足を踏ん張り、赤城に問いただす。

 しかし赤城は応えない。急に何かに取り付かれたようにハイスピードで峠道を駆け抜けてゆく。

 コーナーでは華麗なゼロカウンターハイスピードドリフトをかまし、一陣の風となったRX-7は峠道を突っ走る。

 説明しよう、赤城は愛車RX-7を駆る走り屋で、地元の峠では適う者なしの最速の走り屋なだ。

 仲間達や、今まで打ち破ったライバルから「赤い彗星」の異名を与えられ、仲間やライバルの走り屋はその名を聞いただけで震え上がると言う…。

 しかし、彼は今走り屋として走っているわけじゃない。普段は無駄にスピードは出さず、もちろん隣に凪がいる時は安全運転を心がけているのに。

「ね、ねぇ。ちょ、ちょっと、もうやめてって。ねぇ聞いてるの?」

 凪はなんとか赤城を鎮めようと必死に赤城を説得するが、赤城は聞く耳持たずで凪にお構いなく峠を突っ走る。

 その時、後ろからRX-7を猛追するマシンが1台バックミラーに豆粒大に映し出される。

 赤城はそれに気付き、バックミラーを覗く。

―誰か知らないが、オレにケンカ売るなんていい度胸じゃねーか―

「上等じゃねーか、コーナー2つも抜けりゃバックミラーから消してやるぜ!」

 赤いRX-7は「赤い彗星」の2つ名の通り、猛追するマシンをブッチギってやるためさらにスピードを上げた。

 だがしかし!

 猛追するマシンはRX-7に引き離されるどころか、どんどんと近付いてくる。

 見よ、コーナー2つでバックミラーから消えるどころか、コーナー2つであっさりとRX-7の真後ろについてしまったではないか。

 なんというスピードか。

「な、馬鹿な! 一体どこのどいつだ!」

 あまりのことに、赤城は驚きの色を隠せない。しかしだからと言ってここで引き下がるわけにはいかない。

 最速のプライドに賭けて。

 そして、RX-7を追うマシンは…。真っ白な、スズキGSX750S−刀−。

 真っ白なヘルメットに真っ白なレザースーツに身を固め、白一色の刀のライダーは容赦なく、RX-7を突っついてくる。

 RX-7と刀はハイスピードバトルを繰り広げながら、ハイスピードで峠道を突っ走る。

 途中、普通に走る一般車を次々に追い越してゆく。

 すると、観光バスが見えた。「PON’S BUS」とボディにでかでかと書かれたそのバスを2台は追い越してゆこうとする。

 その時、一瞬窓にどこかで見たことあるような影が見えた。

 赤城はそれを見逃さなかった、そして凪も見逃さなかった。

「鳴海!」

「鳴ちゃん!」

 ふたりは同時に声を上げた。

 後ろの刀のライダーはなにを思ったか、バスに向かってピースサインを送る。

 なんとも余裕なことだった。

 一瞬のことだった。二台はそのままバスを追い越し、そのままバスの運転手の視界から、きらーん、と星粒のように消えていった。

 

 

〜頭文字G それぞれの思い〜

「な…、赤城さんに、姉さん…? それにあのバイクは、まさか…」

 鳴海はこの一瞬の出来事にあっけにとられていた。

 赤城の車は見たことがないから確信はもてないが、確かに赤城と凪が乗っていたように見えた。

「いや、そんなはずないか。見間違えだよ」

 と、自分に言い聞かせて、なかったことにする鳴海。

 しかし、あのバイクはそうもいかなかった。

「沙蔵先生、だよなあれ…。オレに気付いたんだ…。しかし相変わらず、元気だなぁ」

 普通、バトル中にピースなんかするか?

 だが、今はそれどころじゃない。

 そうだそれどころじゃない。

 例えアレが赤城で姉を隣に乗せて沙蔵先生とバトルしてよーが、関係ない。

「今オレには、何よりも大事なことがあるんだ…!」

 我知らず、背中に炎が燃え上がっていた。

「あち、あち。鳴海、背中背中!」

 隣の席のでんでろが叫ぶ。

「え、何だよ。今のオレに声かけんな!」

「ばかやろー! お前、背中背中!」

「え、わ! あちちちちいー!」

 でんでろは慌ててぺットボトルのジュースをかけて消化作業にあたる。幸い発見が早く鳴海の背中は無事だった。

「ふぅ、助かった……」

「お前…」

 いや、みなまで言うまい、と思いでんでろは何も言わなかった。

 でんでろは、「例えオレの大事なヴィデオを捨てたとしても、お前はオレの大事な友人なんだ。そしていつかオレの義弟(おとうと)になるんだからな…。陰ながら応援してるよ。ああ、オレっていいヤツ(はぁと)」と勝手に浸りんぐタイムに突入していったのだった。

 しかし、肝心の鳴海が何を思っているかなんてわかってなくて。なにか考え事をしてるとしかわかってないのであった。 

 要するに未来の自分と凪の姿を想像し、妄想に浸り切りたいだけなのであった…。

 そのため、憧れの凪姉さんを見逃してしまったとも気付かずに…。

 鳴海はシートに身をうずめて、外の景色を眺め、また物憂げな面持ちでこれからのことを考えていた。

 考えてもどうにもなるもんじゃない、どう行動すればいいのかわかってるんだから。でも、考えてしまう。考えた方が、考えないよリ何故か気持ちが落ち着いた。

「なんだいなんだい、後ろは。騒がしくなったと思ったらなんか浸っちゃって。いやだね、ああいうベタなロマンチストは。何もわかっちゃいない。君もそう思うだろう、マドモアゼル」

 一番前の席ではPONと美莉里が座っていた。

 PONは口にバラをくわえ、目を輝かせ美莉里に語りかけた。

「ロマンの何たるかを知らない輩には、ロマンチックになってほしくないね。だってそうじゃないか。結局は彼らは真似をしてるだけなんだよ、ああいやだ猿真似は」

 延々とロマンについて語るPON。さきほどバスを追い越していった2台のことなど当に忘れ去っていた。

「おや、どうしました? マドモアゼル? 酔いましたか?」

 PONは終始無言の美莉里を気遣い、酔ったならバスを止めようか? と言ってあげたが。美莉里は。

「え、いや。なんでもないです…。ごめんなさい。ちょっと眠たいだけですから」

 とだけ、言うとまた無言で外の景色を眺めていた。

―さっき追い越していったのは、鳴海君のお姉さんと彼氏の人? 後ろは沙蔵先生だ、よね…。鳴海君、気付いたかな…―

 PONの自称「ロマンチック」の囁きをBGMに、美莉里はただバスに揺られ、時間が流れるに身を任せるだけだった。

 太陽の光が、美莉里を優しく包み込み。どうしてかわからないけど、少し沈み気味な気持ちを、暖かな気持ちにさせてくれる。

 そうそう、危うく書き忘れるところであったが。

 このバスはPONが所有しているバスなのだ。お金持ちの彼にはバスなどミニカーの玩具と同じなのであった。

 そして、バスのほかにメルセデスベンツやBMW、フェラーリ、ポルシェと言った超高級車も所有していたのだった。もちろんこれも彼にとってはミニカーと同じようなものだった、羨ましいぞコンチキショウ。

 しかし、PONはまだ免許が取れる年齢ではないので乗ることはできない。

 しかし、PONファンの皆様ご安心を。彼は腕の立つドライバーを金に物を言わせて雇い。自分の代わりに運転してもらっているのであった。

 もちろん、バスの運転手。リリィ・シュシュもそんな凄腕のドライバーの一人だ。

 さっき2台に追い越されたとき、思わず2台を追いかけたい衝動に駆られたが。

「我慢だ、リリィ。任務中だぞ」

 と、ぐっと堪えているのであった。彼は運転のプロである、プロである以上は私情を捨て去り任務をまっとうせねばいけなかった。

 安全第一、無事にバスに乗っている人たちを目的地に送り、無事に帰還させる。

 これが、今の彼にとってなによりも尊い任務なのであった。

 彼は他のバス会社からのヘッドハンティング(引き抜き)にあっているが、私の仕えるお方はこの世にただ一人、とすべて蹴っている。

 彼はPONが一番信頼する部下なのであった。そして彼はその信頼に応えるべく、バスを運転していたのだった。

 まさにプロフェッショナル。リリィ・シュシュ。

 で、何をしにいってるかと言うと。みんなと一緒に連休を利用してPONの叔父の経営するペンション「森の宿屋」にヴァカンスを楽しみにいっているのであった。

 美莉里とPONの座席の、後ろの座席には生徒会長のミュンと美莉里の仲良しの友達の明日美が身を寄せ合ってすーすーと寝息を立てていた。

 そう、バスの中はあるものにとっては母のお腹の中と等しく、安らかな眠りを誘う場所でもあった。

 2人とも、本当に気持ちよく眠っている。

「むにゃむにゃ、もう食べられないよぅ」

 明日見は笑いながら寝言を言った。すると。

「好き嫌いはいけないよ」

 と、ミュンまでつられて寝言を言う。

 なかなかに、微笑ましい光景だった。

 ふと美莉里は後ろを振り向き、微笑んだ。

 さらに後ろを見れば、鳴海とでんでろが2人でなにか考え事をしている。

 また美莉里は微笑んだ。

 自分には、こうして一緒に遊びに行ける友達がいる。それはなんて良い事なんだろう。ふとふと考える。

 その時、またふと、気付いた。

 あれ、そういえば誰かいないような気がする…。

 

 

〜頭文字G キュートなヒッチハイカー〜

 2台のバトルは永遠に続くかと思われたが、あっけない幕切れを向かえた。

 とある左コーナー、赤城はブレーキを踏んで減速した。その途端、待ってましたと言わんがばかりに刀が加速しRX-7のインを突いた!

「な! なんて突込みだ!」

 赤城は慌てたが、ときすでに遅し。刀はRX-7をそのまま抜き去ってしまった。

「くそったれがぁー!」

 刀に抜かれ、再び前に出る為に刀を追おうとしたが。

「もういいでしょ! お互い十分やりあったって。もう決着はついたんだよ!」

 突然、凪が赤城に大きな声で言った。

「もうバトルは終わり。康彦は負けたんだよ。わかるでしょ…」

 必死の面持ちで恋人をさとす凪を見て、赤城は何も言えなかった。

「それに、あたし、凄く怖かった…」

 その言葉が、赤城の心に深く突き刺さった。自分は何をしたんだろう。

 馬鹿みたいに息巻いて、結局は恋人を怖がらせただけだった。

 赤城は、無言で、減速したまま惰性でRX-7を走らせた。しばらく走ると信号のある交差点に着いた。信号は赤だ。

 刀が止まっている。赤城はRX-7を刀の横につけて止まると刀のライダーが窓をこんこんと指で小突いた。

 なんだろうと思って窓を開けると、刀のライダー。沙蔵は一言こう言った。

「速いのはいいんだけどさ、隣に誰がのってるかもうちょっと考えて走りなよ」

 信号が青になると、沙蔵は刀を発進させた。RX-7がそれに続く。

 刀はそのままスピードを上げ、赤城と凪のの視界から消えた行った。消え去り際に、左手を上げピースサインを後ろのRX-7に送った。

 凪はそれを見て、ほっとした。だが、赤城は泣き面に蜂と言わんがばかりに益々寡黙になってしまった。負けたショックと凪を怖がらせ、それを刀のライダーに見破られていたのがよほど堪えたらしかった。

 暗い影がずどーんと彼の背中に落ちている。サングラスの奥の瞳はかすかに濡れていた。

「康彦……」

 凪は赤城を心配そうに見つめた。そうだ、何か明るい話題で雰囲気を良くしないと。

 凪は、赤城に明るく語りかけた。

「そうそう、この前可笑しいことあったんだ。鳴海がね……」

 明るく話す凪、すると赤城も一緒に笑い始めた。

「それで、鳴海のヤツはどうしたんだ?」

「それがねそれがね…」

 さっきとは打って変わってRX-7の中に明るい空気が舞い戻った。

 凪は赤城を心配してくれている、それをやっと赤城はわかった。

―でも、どうして。オレはサングラスを外せないんだろう…―

 しばらく走ってると、少女が一人親指を立ててなにかRX-7にアピールしている。

 ヒッチハイカーだ。

 いまどき珍しい、と思いつつも通り過ぎようとしたが。

「待って康彦! 乗せていってあげて、女の子がひとりで旅をしてるんだもん。このまま通り過ぎるなんて可哀想だよ」

 という、凪の言葉に従い赤城はRX-7を女の子のそばに止めてあげた。

「ああ、おおきにーおおきにー」

 女の子は関西弁で礼を言いながらRX-7まで駆け寄った。

「さあ、どうぞ。乗って」

 凪の優しい声に導かれ、女の子はRX-7の後部座席に腰掛けた。

 RX-7は女の子を乗せると発進した。

「どこまで行くんだ?」

「え、ちょっとヴァカンスになー。でも友達に置いてかれてしもうて…」

「そうか…。いや、そうじゃなくてどこまで行くんだ、って聞いてるんだが…」

 サングラスをかけたまま、赤城はちょっとぶっきらぼうに女の子に話し掛ける。

 隣で凪が小声でもうちょっと優しく、と言っているのが聞こえた。

「んとな、森の宿屋とかいうペンションに行ってるんやけど。おにーさんとおねーさんはどこに行ってはるの?」

 女の子は笑顔で赤城の質問に応えると。赤城と凪は驚いたように顔を見合わせて。凪は女の子に言った。

「あたしたちも、森の宿屋に行ってるんだ。こんな偶然もあるんだね」

「え、そーなん? それはほんまに偶然やね」

 女の子もやや驚いたようだが、ヒッチハイクしてもらった車が同じ目的地に行くんだとわかると、安心したように笑った。

「いやー、助かるわぁ。ほんま。これならいちいち乗り換えせんでもええしね。いやー、よかったよかった」

 よかったよかったを連発する女の子、しかし赤城は良くないと心の中で連発していた。そりゃそうだ、少しでも多く凪とふたりっきりになりたいのに。とんだ邪魔者が入ったものだ。

「ところで、あなたお名前は?」

「え、あたし。あたしの名前は絹馬超。絹ちゃんってよんでね(はぁと)」

「絹ちゃんって言うんだ。可愛い名前ね。あたしはアサ凪。凪って呼んでね」

「ありがとう凪おねーさん。運転してるおにーさんは凪ねーさんの彼氏なん?」

「え、う、うん。まぁね」

 さすがは女同士だけあって、打ち解けるのも早い。

 2人は楽しそうにおしゃべりしている。赤城はなんだか蚊帳の外に放り出された気分だった。

―まぁね、か。まぁいっか―

 赤城は黙々とRX-7を走らせた、それと。

―オレの名前はーーーー!?―

 

 

〜頭文字G ペンション「森の宿屋」〜

「お待ちしておりました。ようこそいらっしゃいました沙蔵様」

「沙蔵様のご宿泊、従業員一同歓迎いたします」

「それでは沙蔵さま、お部屋までご案内いたします」

 沙蔵が森の宿屋に到着すると、3人の人物が沙蔵を篤く出迎えた。

 言うまでもない、PONの叔父にして、ここ『森の宿屋』でのマスターであるもりさんと、従業員の杜仲茶とshigi鴇であった。

 威厳あるナイスミドルなダンディーな面持ちは、雲のような大きさと柔らかさを兼ね備え。

 女性客から絶大な人気を誇り、女性客の中にはこのもりさんが目当てで森の宿屋に宿泊する者もいるほどだった。

 そして、脇を固める2人の若者はもりさんが直々に面接し、地獄のような厳しい特訓をこなしてきた精鋭であった。

 その特訓は、とても言葉では言い表すことが出来ないほど。厳しく過酷なものであった。

 お客様のかばんに見立てた大きな石を運び、お部屋まで案内する特訓。

 あらん限りの大きな声でお客様に挨拶する特訓。

 手や足には重りのついた手かせや足かせをつけて、お客様につくす特訓など日常的であった。

 他にも数名いたのだが、あまりの厳しさにほとんどのものが抜け出してしまい。

 残っているのはこの2名、shigi鴇と杜仲茶のみであった。

 彼らは、将来世界的なペンション経営者となることを約束された幹部候補生でもあった。

 杜仲茶とshigi鴇は。訓練を終了した時、もりさんの流す熱い涙の温度を生涯忘れることはないであろう。

 それだけ、彼らは熱い漢(おとこ)達であった。

「ありがとう。だが荷物は自分で運ぶよ。気持ちだけで十分だ」

「は、かしこまりました。では、ごゆっくりと…」

 3人がうやうやしく礼をすると、沙蔵は3人を後にして自分の予約しっている部屋へと向かった。

「ふぅ、やっとくつろげるわぁ〜」

 部屋に入った沙蔵は。そう言うと、白いレザースーツを脱ぎ捨てささっとTシャツとショートパンツに着替えてあお向けに大の字にベッドに倒れこんだ。

「ああ、癒されるわぁ〜。たまにゃ仕事の事忘れてのんびりしたいよねぇ〜」

 ふかふかの柔らかいベッドは、激しいライディングをした身体をやさしく包み込み、まるで雲の上にいるみたいだった。

 沙蔵はこのまま眠り姫よろしく眠り込んでしまった






 さて、ここでペンション「森の宿屋」を紹介しよう。

 これを読んだらきっと貴方も行きたくなるはず。

〜ペンション「森の宿屋」紹介〜

 小高い丘に建つペンションは、周囲を多くの緑と静寂さにかこまれた最高のロケーションにあります。

 明るい時間は太陽の光注がれる広大な丘陵地が、夜は広大な夜空の大パノラマが。全室、館内全ての部屋でご覧になれます。

 ペンション内のサロンには、五千冊の書籍、三千枚のレコードや千を越える映画ビデオなどが並び、訪れたお客様にゆったりとくつろいで頂ける空間が提供されています。音楽会や読書会もオープン以来毎晩催され、ほとんど毎週のように国境やジャンルを問わず様々な音楽が演奏されています。

 また、スポーツ大好きな行動派の貴方には。ペンションの敷地内にあるテニスコートでテニスを。サイクリングコースでサイクリングを。釣りが好きな方には敷地内にある人口池でバスフィッシングを楽しむことが出来ます。

 最先端の科学を集結して作られた広大な人口温泉は大人100名が入れる広さで、効能はリウマチや美白、腰痛に効果があります。

 是非、我らの科学力をそのお体で体験してみてください。

 100名様収容可能な大食堂で従業員が腕によりをかけた美味しいご馳走を振舞います。是非、私達の作った料理に舌鼓を打ってください。

 ほっぺたが落ちること請け合いです。

 お部屋は常に明るさ清潔感に溢れ、お客様をきっと満足させることをお約束いたします。

 ちょっと、自然の中に身を置いて。開放感に溢れるパワーを体感してみませんか。

 ペンション森の宿屋はいつでも1年365日1日24時間、あなたからのご予約、ご宿泊をおまちしております。

 by

 森の宿屋主人:もりさん

 従業員:shigi鴇 杜仲茶

(森の宿屋パンフレットより抜粋)

 

 

〜頭文字G そしてみんな集まった〜

「ふー、やれやれ。やっと到着だ」

「お疲れ様、康彦」

「わー、キレイなペンションやなー。まわりも緑に囲まれてキレイなところやわー」

 ペンションの駐車場にRX-7が止まると、3人は車を降りてペンションに向かった。

 空気が美味いのか、康彦は何度も深呼吸している。

 それを見て、凪と絹がくすっと笑う。

「な、なんだよ…」

「んーん、なんでも、ね」

「うん、凪おねーさん」

「ちぇ、変なヤツ」

 その時、あの刀が、駐車場の2輪専用駐車場に止まっているのが赤城の目に止まった。

 しかし、凪は気付いていない。

 またやっかいなことになるかもしれないので、赤城はわざと無視してそのままペンションに向かった。

「あいつもここに来てたのか…」

「え、なに?」

「いや、なんでもねぇ。空気が美味いなと言ったんだ」

 気が付けば絹はとっとと先に行っている。その向こうにはもりさんをはじめ森の宿屋スタッフが彼らを出迎えていた。

 3人は丁重な出迎えを受け、手続きを済ませて自分の部屋へと向かった。

「って、おい。なんでお前まで来るんだよ…」

「だってー、皆がくるまでヒマやもん〜。もうちょっとあたしの相手してくれへんかな〜。だめ?」

 絹は両手を合わせ、可愛げにウィンクして赤城におねだりする。

 赤城は仕方無い、と溜息をつき首を縦に振った。

 凪とはすっかり仲良しになっているし、むげに突き放すものかわいそうな気もするので。しばらくは自分たちと同じ部屋にいさせてあげるのであった。

 しかし、まさかこんなところで思わぬ邪魔が入るとは、神は赤城に試練を与えるのが好きなようである。

 赤城は窓を開けて、外の景色を眺め、己の身の上に起きたことに自問自答するしかなかった。

 すると。

「なんだか最近の康彦って、鳴ちゃんみたい…」

 と、凪が言った。

「なんだって…。おいおい、オレと鳴海は全然似てないじゃないか」

 赤城は慌てて応える。一体何をもって鳴海みたいというんだ。

 その時。

「鳴海…。鳴海って…、凪ねーさん…。あーーーーー!!」

 突然大声を出す絹。驚いた二人は慌てて絹を見る。

「ど、どうしたの? 絹ちゃん?」

「鳴海って。岡崎鳴海君のことなん?」

「ど、どーしてあなたが鳴海を知ってるの?」

「やっぱり、鳴海君のおねーさんやったんね! あたし、鳴海君とクラス一緒やもん」

 突然のことに凪は目を丸くして絹をまじまじと見ていた。赤城も。

「今日、このペンションに遊びにいこゆーて約束してたけど。あたしちょい遅刻して置いてかれてしもーて。だからこうしてヒッチハイクしていかないかんなってん…」

「なにー! 鳴海もここに来るのか?」

「うん、クラスの仲良しと一緒に」

「でも、まだ鳴海来てないけど…」

「それじゃあ、最初に乗った車がバス追い越していったのかもしれへん。最初の車けっこう飛ばしてたから」

 ふと、バスを追い越す時。鳴海を見たような気がしたが。あれはまさしく鳴海だったのだ。

 なんてことだ、まさにこれは神の悪戯と言うしかない。

 みんなそろって、森の宿屋に集まるのだ。

 バスを追い越したタイミングを考えると、もうすぐ着くはずだ。

 と、思った時。外から集団がやってきた。わいわいがやがやと声がする。

 まさかと思って3人は外をのぞけば、その通り、PONを先頭に美莉里、明日美、ミュン、でんでろに運転手のリリィ。そして鳴海!

「やぁ叔父さん。元気そうでなによりです」

 PONは叔父に会釈し、握手をした後。みんなを紹介する。ちゃっかり美莉里を隣に沿えて。

「よく来てくれたね。さあ入りたまえ。今日はお前やお前の友達が来ると言うことで。気合入れて部屋をキレイにしてるし、気合を入れて美味しい料理も作ってあげるよ。さあ、お友達もどうぞどうぞ。遠慮は無用。何かあれば私かスタッフに言ってくれたまえ」

「いらっしゃいませ。お荷物をお持ちします」

「さあ、どうぞ、お部屋までご案内いたします」

 shigi鴇や杜仲茶がPONたちに訓練の成果をいかんなく発揮する。

 鳴海も荷物を預けて、自分の部屋に向かおうとしていた。

 ふと、美莉里を見ると。彼女はPONと一緒にもりさんとなにか話している。

 まさか婚約者です、なんて言ってないだろな。と思いつつ、じーっと見ていると。突然でんでろが大声を上げた。

「あー、凪ねーさん!」

 その声に驚き、でんでろが指し示す方向を見てみれば。

 2階の部屋から凪が顔を覗かせているではないか。しかも赤城も一緒だ。そして何故か置いてけぼりを食らった絹まで。

 じゃ、あの赤いRX-7は赤城さんのだったんだ。それじゃあ、オレが見たと思ってたのは、間違いじゃなかったんだ…。

 でも、なんで絹まで…、

 周りのみんなも少し驚いているようだった。なにせ鳴海の姉が恋人と一緒にぺンションにいるからだ、しかも何故か置いてけぼりをくらった絹まで一緒だ。

 そして、リリィは赤城をあの赤いRX-7のドライバーとわかって胸のうちに密かな闘志をメラメラと燃え上がらせている。

 駐車場で見たあの2台のマシン、ということは刀のライダーも!

 その途端。

「なんだいうるさいね。どこのだれさんだい?」

 と、眠りを妨げられた沙蔵が恨めしそうに顔を覗かせた。そして、外のメンバーを見て唖然とする。

「あ…、な、なんでみんないるのよ〜」

 クールな沙蔵も、さすがにこれには驚きの色を隠せない。

 事態を見たもりさんは全てを察し、うんうんと頷いている。

「なんだね、みんな知り合いなのか。これはなかなか面白いこともあるもんだな」

 わっはっは、と豪快に笑うもりさん。

 だがPONもさすがに得意の口上は出ない。

 美莉里も唖然としている。

 いや、ここに居合わせている。森の宿屋以外の人間はみんな唖然とするしかなかった。

 まるで、狐か狸に化かされた気分だ。

 しかしこれは現実だった。

「いて!」

「夢じゃない、夢じゃないんだ」

 鳴海はでんでろのほっぺでそれを確認した。

 運命の糸に導かれ、森の宿屋に集いし者達。

 その運命の糸がもつれあった時、今がまさにその時だった。

 ぐちゃぐちゃにもつれた運命の糸は、もうだれもほどけそうになかった。

最終回に続く


 

 あとがき

 どうも、赤城康彦です。

 リレー小説、獄門ラヴストーリー。改め頭文字G、如何でしたか?

 え、好き放題しすぎ?

 パクリ?

 てめーにゃクルマしかないんかい?

 RX-7(FC3S)なんて知らない? 

 無駄に長い?

 こんなヘボいもんの続き書かなきゃいけなくなってしまったもりさんに敷石でも敷いて貰え?

 ぐふ、ぶはぁ!(吐血)

 (血を口からたらしうずくまりながら…)

 RX-7に関しては。頭○字Dを参照にしてくださませ。あの白いのが赤くなったと思っていただければ…(マテ)

 でも、登場キャラみんな出しました。頑張りました。徹夜しました。

 ただ、私がどうあろうと当局は一切関与してません。

 後は、神の裁量を待つばかり。

 それでは皆さん、命があればまたお会いしましょう。

 なお、このメッセージは自動的に消滅する。(♪ミッションインポッシブル)