4月の思い出



−究極のメニュー−

横浜は食の都。ラーメンが実に美味い。

まだ2〜3件しか知らないのでとても通ぶれないが、

長崎で食べていたラーメンなんてラーメンじゃない!これじゃラーメンマンも戦えない!

というくらいショックを受けたものだ。

ラーメンの激戦区らしく、味やメニューにも工夫が凝らしてあり、

チャーシューの量もハンパじゃないうえに値段もお手頃。

こっちへ来て、密かにラーメンを食べ歩いているのだが、

ある日、運命的な出会いを果たした。



うちの寮は日曜と祝日は食事が出ない。

ある日曜日、同期の友人達と夕食を食べに行った。

ステーキラーメンを食べてみないか?と誘われて。

ステーキラーメン・・・なんと魅力的な響きであろうか。

かたや中国原産ながら、この島国で独自の進化を遂げ、今も進歩を続け、

伝統的でありながら常に革新的な、それでいて日常的な日本人の国民食。

かたやルーツは原始時代に遡りながら、いつの時代でも

その4文字で聞く者すべてを魅了するゴージャスかつダイナミックな料理。

そのふたつが合わさったのだからそれはもうすごい料理に違いない。

食べた者を虜にしてしまい、一生他の料理を食べられなくする料理界の禁断の果実に違いない。

そこはチャレンジャブルなこと某キューピットのごとし、

誘われて0.05秒で食べることを宣言しましたよ。

その魅力的な料理を出す店はアダンティというらしい。


大体がラーメンを作るのにも、ステーキを作るのにも何年も修行が必要ですよ。

テレビとか見るとラーメンの店もステーキの店も、もの凄い苦労してらっしゃるし。

どちらもこなし、しかもふたつを組み合わせてしまえたというのだから、

とんでもない料理の鉄人に違いないに違いない!

読者のみなさんは、ちょっと疑問を感じたでしょ?

美味い物同士を合わせても美味いとは限らんのでは、と。

今までステーキラーメンが無かったのは、単にマズイからでは?

と思う方もいらっしゃるだろう。

この疑問はもっともだ。そんな物が美味いと考えるのは子供だけだ。

しかし、2003年の日本であえてメニューとして出しているということは

その辺のクリアしているからとは考えられないだろうか?

誰も為し得なかったステーキとラーメンの相乗効果を達し得たと考えられないだろうか。

同期の中ではまだ誰も食べたことがない、オレらはちょっとコワイから

食べたいならジーコが食べろという弱気なことを言うので、上のような洞察を繰り広げてみた。

で、そのステーキラーメンを出す店に到着。

店の名前は・・・・・あれ?あだん亭

アダンティじゃないの?

中に入ってみると、なんとも普通の定食屋。

あれ?赤いコック帽に長いナイフをかちゃかちゃ言わせているステーキ職人は?

1000分の1秒のタイミングで麺上げをやっている麺職人は?

いたのはなんとも無愛想なオヤジとおばさん。

いやいや、こんな店だからこそ美味いに違いない。

ミスター味っ子の実家も小汚い定食屋だったではないか。

で注文だが、自分は心に決めていたステーキラーメンを頼んだが、

同期の3人はハンバーグ定食とかサイコロステーキ定食に逃げやがった。

頼んだ中で、一番最後に来たのがステーキラーメンだった。

怖々丼を覗いてみたらなんだか溺れてますなぁステーキ君・・・・。

ステーキの大きさが思ったよりも小さい。歯ごたえも固い。

食べてみたら、うーん・・・・・・・・・という感じ。

例えば本格的なキャンプに何泊かで行ったとする。

夕食はインスタントラーメンだが、隣でテント張っていた人が

明日はもう下山するし、と好意でステーキ肉をくれた。

イェーラッキー!!寂しい献立が一気にゴージャスに!

でも肉をおいしく味わう調味料がない。

仕方ない、ラーメンにいれちゃえ!というような味だった。

ここまで読んでみてステーキラーメンってどんな味かを自分なりに想像してみて。

そのまんまの味だから。


あれを形容するなら一言、「珍味じゃ!!」


−ムフフ本−

寮での俺とジョー君の同居生活は退廃を極めた。

どんなに?というとムフフ本の量が。

さすが100人近い人間が住んでいる独身寮、ゴミ捨て場に集まるムフフ本の量もハンパじゃない。

なんで捨てるんだ!とばかりにかき集めて部屋に持ち帰っていた。

ええ、もちろん拾っていたのは全部が全部ジョー君で、

モツイチが炭化を通り越して取れちゃっても知らないぞ、と医者から言われていたほどの

モテモテで、そんなもの一切必要ない俺は1冊も拾ったりなんてしてないですよ?

決して幼稚園、小学校、中学校と俺を小さくさせていた不良っぽい人種でも

うまく調子に乗せれば、意のままにムフフ本を拾ってきてくれるとか

そんなことを面白がっていたとかそんなこともないです!

自分が拾ってきた物を混ぜておいて罪をなすりつける、とかそんなことはしてないですよ。


ただ彼が調子に乗って拾ってくるものだから、終いには1部屋に32冊という

常識ではあり得ない数になった。

そりゃ冊数を競うなら、マニアはまだまだ上でしょうよ。

でも入社して一ヶ月も経たないうちに集まる量じゃない。

一列に積んでみたらすごい高さになった。一冊の厚さも結構な本ばかりで、あれこそムフフ本塔

悟空も修行のために登ってみたらどうだろう?と思ったものだ。

ある日、少年ジャンプ系の造りの、角が固いムフフ本が

雪崩をおこして寝ている俺のあばらを直撃したこともあった。



今は1人部屋になり、部屋にはセザンヌの絵画にクラシック音楽が流れており、

ムフフ本など一冊も、断じて一冊もないという清潔な部屋だが、

あの乱れきった部屋を思い出すたび、世界は常に混沌から始まるのだ、ということを考える。




−研修−

研修の内容についてはほとんど書くことはなし。

ほとんどがCプログラミングの演習でカリカリしながらパソコンに向かっていた。

自分の未熟さを謙虚に受け止めるなら、退屈だとかつまんないとか

講師の変なおばばが自分の後ろに、明らかに他の人より長い時間付きまとい、

プレッシャーをかけられるのがイヤだったとか言ってはいけないのかもしれない。

でも結構落ち込んだりした。



ただひとつ面白い講義があった。

それは「Intellectual Training」、いわゆる発想力を鍛えるという講義だった。


あるメーカーで、未だかつてないような斬新な新製品が登場しない、

なぜそういうアイディアを出す人がいないのか、というのが問題になったところ、

社員がそういう発想をする訓練を受けていない、というのが学者の意見。

それをきっかけに教育として取り入れられたのだそうだ。

直面している技術的な問題点を解決するための発想力から、さらには創造性まで、

実は訓練で鍛えられるという、いかにも面白そうな講義である。


本当に新しいアイディアは、最初はバカバカしいと思える面を持っている、

どんなアイディアにもメリットはある、
という観点に立ち

とにかく自由に連想することが出発点という実に楽しい学問である。

その連想を引き出すにも、

こうだったらなぁ、という希望点列挙、もしくは

こうでなければなぁ、という欠点列挙から新しい家電の発想を得るとか、

人間の5感――触覚・視覚・嗅覚・味覚・嗅覚――を列挙し、その感覚を変えたり

新たな感覚を追加することによりアイディアの発想を行う(料理とかそうだろうか?)

等々、実に多くのコツやプロセスがある。



さて講義では、携帯電話に搭載するまったく新しい機能を、

実現できるできないかはさて置いて、思いついたアイディアを


品名:○○な携帯
機能:△△な機能


といった具合に自由に紙に書き、他の人がその紙を見て考え、また紙に書く。

他人が書いた紙を見たり、自分のアイディアを融合したりして、また考えることを繰り返し・・・

そういう演習があった。


長い間充電しなくてもいい携帯、今よりもっと小さい携帯とかつまんない

身近になりすぎたせいか、携帯ならこうあるべきという考えに捕らわれた案が多い中、

そこは毎日ムダな妄想に時間を費やしている自分、妄想力を全開にして書きまくった。

ごく一部をここで紹介。


品名:プレゼンテーションに便利な携帯
機能:レーザーポインタ(光のよる差し棒)やマイクとして使える携帯。


品名:快適な携帯
機能:夏冷たく、冬暖かい携帯。


品名:防犯携帯
機能:防犯ベルが鳴る。催涙スプレーの発射もできる。スタンガンにもなる。


品名:寂しくない携帯
機能:着信が10日以上ないとき、携帯が自動的に珍文をダウンロードしてくれる。慰めてくれる。


品名:自爆携帯
機能:持ち主と指紋が一致しない人が10秒以上持っていたら、爆発して個人情報の秘密を保持。


品名:エロい携帯
機能:異性を撮るとき自動的にピントを合わせる。同性ならぼかす



どう?斬新でしょ?

別に自慢してるんじゃないんです。どんな権力と財力を手に入れても絶対ボツになるに決まってるし。

ただ、自分のムチャクチャな案が他の人にちょっとづつ伝染していき、


品名:防犯ベル機能つき携帯
機能:大きな音が出るボタンがついていて、防犯につながる。


といった具合に実現できそうな案に無理矢理まとめようとされているのが面白かった。

その時は、またまたイヤな物言いになるが、

「ふはははは!!発想の貧民どもが!!」とか調子に乗ったことを思ったものだ。

ちなみにその紙は講師の人がすべて回収し、どこかへ持っていった。

もし肉欲ブランドでクレイジーな携帯が発売されたらそれを考えたのは俺だからね。




−LOVEについて僕が語ろう−


就職したらモテる、横浜に行ったらモテる、などと何の根拠もなく思っていたが、

全然ウソ!モテない!

痴女さんが電車内でおとなしそうな男のコを狙っているとか

ウソもウソ!大ウソ!

これを読んでる学生諸君、別に都会に出てきてもモテるようにはならないから

今のうちにガンバっておきなさい。



さてさて、春と言えば出会いの季節で、恋愛事情がどうだったかといえば、

4月中頃の段階で、O嬢に圧倒的に片想いな事を同期の半数以上にばれてしまった。

同期の誰かに同意したことから始まったと思うのだが、

そこは恋愛に関しては中学生並で、人の噂が大好きな同期がほとんど。

あっという間に広まり、公認カップルならぬ公認ラブコメ野郎になってしまった。

今となっては知らないの同期はおらず、

まだ名前も知らない同期にまでバレているという事態になってしまった。

それどころか業務連絡で届いたメールを後生大事に持っていることも、

寮で名前を叫びながら枕を抱きしめていたのも全部バレてんの!


なぜ?



もう今では、毎日挨拶代わりに

「Oさんにはいつ告白すんの〜〜?」

と聴かれるありさま。



就職試験の面接の前に、

「Oさんに、『落ち着いてガンバってくださいね』って言われたよ」

なんて自慢して俺を苦しめるヤツまでいる。

俺は言われなかったさ!



「お昼は2階の給湯室にいるよ、行ってみたら?」

とからかうヤツ!



さらに美人を見かけたら、

「Oさんとはまた違ったタイプの―――」

とわざわざ余計な一言をつけるヤツ!



飲み会の席で、人事課でO嬢の前の席に座っている人事課長に、

「5000円払えば紹介してやるよ」

とか言われる始末!黙れ!奥さんも子供もいるヤリ○ン風情が!!



「パンチラ動画が・・・・・」
「挙式には呼んでく・・・」

ええい!黙れ黙れ!!



あんたらは卑怯者だ!

自分だってときめいていたクセに!

ひとたび惚れっぽいヤツがいたら、そいつがどうにかするだろうと思っているだろう!

そして自分の本当の気持ちにフタをして安心してるんだろう!


何度もそう言ったのだが、それが面白いらしく、ジーコをからかって遊ぼう熱は冷めない。

さらには真偽の定かでないうわさがいろいろと飛び交っており、

O嬢はオレらより、1年先に入社だから歳も近いよ!とか

実は短大卒だから、なんと21歳でオレらより年下だよ!とか

地下の魔法陣から召喚されているとか、実験室の培養槽に帰っているとか、

ミルクとハチミツしか口にしないとか、身長130pとか。


Oさんのメルアドをわざわざメールで送りつけて来るヤツもいる。

会社のメルアドなら、もう知っとるちゅーねん!

知っているのもどうかしていると思うが。

中国からの留学生、というかスパイの長さんは、

件名もなく、本文にURLが載っているだけのメールを送りつけ、

何かな?と思って開いてみたら、O嬢が参加した社内バーベキュー大会だったり。

こういうふうに、今はメルマガまで送りつけて来る同期までいる。


まったく頼りにならない同期のせいで情勢は硬直してますが、

進展があったらまたお知らせします。


−自己紹介−

入社式の翌日から早速、研修が始まった。

51人いる新入社員が集まって、プログラミングの講義を受けたりするわけだが、

その講義が始まる前、朝の8時45分から朝礼があり、

毎日新人のうちの1人ないし2人が全員の前で、5分間の自己紹介をしなければならない。

控えめでシャイで人前に出るのが苦手な自分としては、何日も前から悩んだりしていた。

他の新人はすらすらと喋っており、よくもまああんなに舌が回るものだ、と思っていたが、

途中から奇妙な傾向になってきて、自己紹介の中で必ず笑いをとらなければならない、

という雰囲気になってきた。多かったのは自分の家からコンビニまで3qだとか、

去年までコンビニが無かったとか、そういう田舎っぺ自慢だが、

中には感心するほどスゴイのもいる。


さて自分は何を喋ろうか困った。ごく一部の人には既に変態であることが露見しており、

ジーコは何を喋るのかな〜と期待されていた。いろいろ考えたが、


「長崎は軍港があり、ハウステンボスもあるため、外国人が多い異国情緒あふれた街です。
 ところが、外国人に長崎の女性をとられてしまい、男性が余ってしまうことが深刻な社会問題で、
 自分がこっちに就職したのもその辺の事情のためです」


とまあこんな話をして、適当に笑いをとった。

日記を書いているときと、酒の席でしか表面に浮かび上がってこない無頼漢な俺は


「おいおい!お前はそんな薄味じゃねーだろ!外国人はフニャ○ンだから止めとけ!
 という濃厚なフレーズを入れなきゃ駄目だろ!!」


と耳元で囁くが、そいつは叩きのめしておいて、社会人らしい、人畜無害な挨拶にとどめておいた。


個性豊かな自己紹介が続くが、圧巻だったのは中国からの留学生・長さん(仮名)。

見かけはキャイーンの天野氏をひとまわり横に大きくしたようなルックスで、年齢は29歳。

中国の大学を出てから日本の大学に入ったそうだ。

たどたどしい日本語で、


「生まれは中国の北京です。
 好きな食べ物はです。嫌いな食べ物は肉以外の物です」


まさに肉食獣、いや中国4千年の歴史が生んだ悪鬼!?

あの体型を維持しているだけある。

教室内は自己紹介史上で一番笑いの渦に包まれた。

そして自分の名前の漢字に、「金」という字が含まれていることに触れ、


「決してお金持ちという意味ではなく、お金いっぱい欲しいという意味です」


な、なんて正直な人だ!!

一般的に留学生って国籍は関係なくストイックなイメージあるじゃない?

少なくとも学生時代にうちの学校に来ていた人たちはそうだった。

でもこの人は違う。

普段から色眼鏡をかけていて、カジノで乱闘を起こしていそうな

チャイニーズマフィアのドンのようなカンフー映画のような迫力がある。

煙草を1日に2箱も吸うし、毎日のように仕事が終わったらパチンコやギャンブルに行く。

日本に留学していると国からの補助で良い暮らしができるらしいが、その金を遊びに使いまくる。

しかし頭はめちゃくちゃ良くて、言語の壁をものともせず、成績は日本人を押しのけてトップクラスという

一番肝心な点はしっかり押さえている。


ひょんなことから、この長さんと仲良くなり、いろいろと世話になった。研修もそれ以外の事も。

これからもちょくちょく出てくるだろうと思われる。

彼は今、僕の上の階で働いている。






−名前と他者の認識について−

名前、それは個人を識別するための概念である。

いつ頃から人間が他者の識別に名前を用いるようになったか、定かではない。

しかし、生まれたときにはそれは常識としてそこにあった。

自分は、人間という生物の中で、自分と多くの時間を共有する

同級生・男子に本名で呼ばれることが極めて少ない。

そしてほとんどの場合、奇妙なニックネームで呼ばれることが多い。

で呼ばれることが多い。

そしてそのニックネームは、ほとんどの場合、本名とあまりにかけ離れている。

いつ頃からそう呼ばれ始めたのか、誰がそう呼び出したのか、いつもハッキリしない。

理由も定かではない。自分の本名は、あまりに平凡で単純だと自分では思っているが、

他人からすれば実に読みにくい、もしくは呼びにくい名なのではないだろうか。

たとえば、『あおまきがみあかまきがみきまきがみ』などの

単なるひらがなによる文字列でも、声に出してみると読みにくいことこの上ない。

自分の本名は、それに類するのではないだろうか。

もしくは歴史上に悪名高い犯罪者が自分と同姓同名だとか。

まあ、呼んでいる立場の人間からすれば、由来とかどうでもよさげで、

多くの人間と新たに出会う春という季節を22回繰り返し、

自分と認識する記号を自分と相対するすべての人間に欲しがられている、

言葉にするにのは難しいが、そんな感じを受けた。

もうそれは、才能とか個性と呼ばれるしか言いようがない。

ブサイクで非モテという身体的特徴が練り込まれたワケではないので、

特にうっとおしいと思ったこともないが、

このままでは自分の本当の名前を忘れるんじゃないか、と思うときが来る。

そして就職した現在も、同じ歳の「同級生」から、同じ年度入社の「同期」へと

少し範囲が広くなったものの、相も変わらず奇妙なニックネームで呼ばれる毎日である。


現在、ネットででんでろ音波虫と名乗っている人間は、

会社の同期からジーコというニックネームで呼ばれている。

あのサッカー日本代表監督のジーコ。別にサッカーが上手いわけでもないのに。

誰からそう呼ばれ始めたか、すでに分からなくなりかけているが、

なぜそう呼ばれるのか、と尋ねられたら、

表向きは、本名をちょっともじって付けられた呼び名、ということにしている。

表向きは

その名前の由来の真相は―――

酒の席で、常識の範疇を遙かに越えた、下品極まりないトークをしたらしいんですよ!

ジーコと呼ばれはじめる前のバカは!!

自分ではゆる〜いジャブ程度の話だったにも関わらず、

意外にもそういう話には免疫がなかったらしく、

笑いがとれてる?と少〜しだけ調子に乗っていたら、

わずか入社4日目で、「今までの人生で出会った最高の変態」

という実にありがたい称号をいただきましたよ!


まず同室者のジョー君が買ってきたムフフ本を

寮でのパジャマ呑み会パーティーの席で「ぬるい、ぬるすぎる!」

と酷評したことから始まる。

いや、本当にぬるかったのだ。渋谷とか原宿で歩いてそうなオサレなギャルの衣装から

ぬうどが申し訳程度にはみ出ししている、とかそんなの。

「都会人はこんなので満足しているのか!」

と、怒ったとは言わないまでも、結構マジであきれたら、

第1段階として、エロについて見る目とこだわりがあるカリスマみたいな立場に立たされた。

それからは、飲めもしないのに、酒の席には必ず呼ばれるようになり、あとはもう坂を転げ落ちて行くのみ。

火星方形を「卵を吐き出そうとしているピッコロ大魔王」

と比喩したことがそんなに面白かったのか!

あんたらはお子様だよ!!ワサビ抜きの寿司ばっかり喰ってるからだよ!


そのノリで自らを慰める行為についても熱く語ったわけですな。

それ以来ですよ、変なニックネームが付いたのは。

察しの良い方はもうお気づきでしょう。

ジーコというニックネームの由来は自慰行から来てるんですよ!

酒の席の冗談だと思っていたから、会社で呼ばれたときは愕然とするしかないね。

周囲に女の子がいた時はあたふたしたものだ。

同期の連中から

「おーいジーコ 仕事終わったら呑み行こうぜ〜♪」

と呼ばれていても、実は、

「おーい自慰行 仕事終わったら呑み行こうぜ〜♪」


と言われているんですよ!



横浜の地でも長崎と同じように生きていくしかないのか・・・・

でんでろイケメン化計画・頓挫中。


4/1(火)



入社式、新社会人としてのスタートを切る記念すべき日である。

そして記念すべき日は会社にとっても同じ。

この日は肉商事と欲商事が合併して肉欲商事として生まれ変わった日でもあるのだ。

この合併は2月くらいに急遽決まった話で、内定者だった自分たち今年の新人を戸惑わせた。

朝の8時45分、入社式の前に、屋外のグラウンドで全社員が集まっての発足式が開催された。

「肉商事と欲商事の合併は時代のニーズによるもので・・・」

と建前上、そういうことになっているが、

肉商事が欲商事を半ば吸収する形での合併である、ともっぱらの噂である。

それは別にいいとして、社長のスピーチがやたら長い。

「人間と肉欲とは切っても切り離せず、パイプカットするほか・・・・」

こんな話が延々と続き、入社式前にいきなり愛社精神をなくしてしまった。

この社長の話で思い出したのが、中学校の頃の校長。

その校長は、全校集会の度に自分で作った俳句を読むと決めていて、

赴任式兼入学式の挨拶でいきなり俳句を披露してくれた。


「○岐中のぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぅぅぅ〜
 縁のぉぉぅぉぅ〜〜〜〜〜おかげでぇぃぇぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぅぇぃ〜〜〜〜〜〜〜
 入ぅ〜〜〜〜学しぃ〜ぅぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぅぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」(所要時間1分)



さらに半音あげてもう1回リピート。

社長の話の長さは、校長のそれに匹敵する。

まだ生活のリズムができておらず、朝早いということも相まってやたら眠い。

精神状態も入社式ということでそれなりに緊張。しかも慣れない革靴を履いて足が痛い。

そして4月というのに日差しだけは強い。今にもぶっ倒れそうだった。

そして社長の話の後も本部長スピーチやら役員紹介など、発足式は延々と続き、

諸行無常、この世に永遠を生くる者なし、とまで思い始めた頃、ようやく終わりを迎えた。

ようやく解放された、今度はビルの中で入社式だ、とフラフラしながら歩いていると、

社員が整列していたグラウンドの真ん中あたりに何やら人だかりができている。

なんだろう、と思って見てみると、案の定、女子社員がぶっ倒れていた。

大丈夫かよ、この会社・・・・?あまりに不吉な会社の発足式であった。